200と1億は、大きさを競い合う数字ではありません。片方は計算の幅、もう片方は計算の長さです。装置の規模と回路の長さを、二本の物差しに戻して読みます。

元のロードマップ

IBMはStarlingを、2029年に顧客が利用できる大規模な耐故障量子計算機と位置づけています。PoughkeepsieのIBM Quantum Data Centerに構築し、200論理量子ビット上で1億量子ゲートの回路を動かす計画です。

ロードマップには、掲載内容はIBMの現在の意図であり、変更または撤回され得る目標だと注記されています。年と仕様が具体的でも、完成報告ではありません。

200は計算の幅、1億は長さ

200論理量子ビットは、誤り訂正で保護された情報を同時に扱う計算の幅に近い指標です。一つの論理量子ビットは複数の物理量子ビットへ符号化されるため、チップ上の物理素子200個という意味ではありません。

1億ゲートは、その論理情報へ順番に適用できる操作規模です。こちらは回路の長さに近い物差しです。幅の広い机があっても作業手順が数段で止まれば長い計算はできず、長い手順を少数の量子ビットだけで実行しても200論理量子ビットの条件は満たしません。

誤り訂正は保存だけで終わらない

Starlingには、情報を保つ論理メモリーだけでなく、計算を進めるlogical processing unit、モジュール間で情報を移す接続、誤りを実時間で読み解くdecoder、汎用計算に必要なmagic stateが要ります。IBMの技術解説は、耐故障システムを次の性質で整理しています。

  • 論理誤りを十分に抑える。
  • 個々の論理量子ビットを準備・測定できる。
  • 汎用的な命令集合を使える。
  • 測定結果を実時間で復号し、後続命令を変えられる。
  • 複数moduleへ拡張できる。
  • 現実的な物理資源で実装できる。

一部の論理情報を長く保存できても、汎用命令、適応的な復号、module接続がなければStarling全体の達成にはしません。

2026から2029までの証拠窓

IBMは最終目標を年ごとの中間機に分けています。

年予定する主な証拠
2026Kookaburraで論理処理unitと量子memoryを持つ単一module、実時間decoderのprototype
2027Cockatooで二つのmoduleをentangleするadapter
2028複数module、magic state distillation、完全なinstruction set architectureのprototype
2029Starlingを顧客へ提供し、200論理量子ビット・1億ゲートへscale

各年の丸は独立して付けます。2026年の単一moduleが成功しても2029年の顧客提供を先取りせず、途中で遅れが出ても期限前に最終未達とは決めません。

最終判定は三条件を同じsystemでそろえる

第一は2029年中、第二は顧客が利用できる提供状態、第三は200論理量子ビットと1億ゲートの能力です。社内prototypeが完成しても顧客が使えなければ、提供目標は一部だけです。

短い回路を200論理量子ビットで動かす実験と、1億ゲートを少数の論理量子ビットで動かす別実験を足して達成にもしません。同じStarling systemで二つの物差しがそろい、利用条件と検証方法が示される必要があります。

2026年8月の現在地

IBMは2026年の中間目標として、Kookaburraのsingle moduleと実時間誤り訂正decoderのprototypeを置いています。Loonで導入した遠距離qubit接続のarchitectureも、StarlingのqLDPC codeへ向かう部品です。

ただし2026年の予定欄を、実証済みの完了欄には移しません。Starling本体の顧客提供も1億ゲート実証も期限前です。計画が技術部品に分解されている点を前進としつつ、判定は「進行中」です。

次は中間機の完了条件を見る

次回はKookaburraとdecoderについて、予定ではなく実機・実時間動作として何が示されたかを確認します。その後もmodule数、論理エラー率、実行した回路の種類を年次窓に記録します。

2029年の顧客利用が限定的な共同研究なのか、IBM Quantum Platform経由のアクセスなのかも未確定です。1億ゲートの回路が何を計算し、結果をどう検証するかは、数字の達成とは別の有用性欄に残します。

さらに先の2,000論理量子ビット・10億ゲートという拡張は「IBM Blue Jayは2033年以降に実現?」で追います。シオリの二つの物差しは、Starlingの同じ筐体にそろうまで別々に記録します。

トワの進路ノート

今週、未来を待ちながらできること

量子ロードマップの数字を見たら、量子ビット数・ゲート操作数・誤り率のどれかを単位まで書く。同じ単位でない数字は足さず、学びたい一軸だけを選ぶ。

未来記録室の青鉛筆

覚えて帰る一行

Starlingは2029年、200量子ビットと1億ゲートの両条件。

次に見るもの

次回は2027年1月15日を目安に、成功条件へ直接つながる一次情報が増えたかを確認します。公式発表は「その主体が発表した事実」として扱い、実環境での成立や第三者確認と同一視しません。

よくある質問

200量子ビットは物理量子ビットですか?

IBMのロードマップは誤り訂正されたシステム能力として200量子ビットを示します。物理素子の総数とは別に読む必要があります。

1億ゲートとは何ですか?

量子回路で連続して実行できる操作規模の目標です。量子ビット数とは別の、計算の長さに近い指標です。

ロードマップは約束ですか?

IBM自身が、掲載内容は現在の意図で変更・撤回され得る目標だと注記しています。

出典と確認記録

予測を示した資料と、現在地を確認する資料を分けて掲載しています。公式発表は、その主体が発表した事実として扱います。

元の予測・計画

  1. Quantum 2030 — IBM Technology AtlasIBM/確認 2026年8月12日

現在地を確かめる資料

  1. IBM lays out clear path to fault-tolerant quantum computingIBM Quantum/確認 2026年8月12日